噂はますます尾ヒレを伸ばし、2人に対するいたずらも地味で陰険なものへと変わっていった。
2人のことを心配してくれる生徒たちもたくさんいたが、迷惑がかかったら俺が困ると言って、デュオが遠ざけてしまった。
大したダメージは受けていないし、勝手にやってろと言うのが、2人の共通した考えだった。
それに明日にはここでの任務は終了するのだし、その後すぐに出て行けばいい。どっちにしろ、差し当たって悩む程の問題というわけでもなかった。
だがその日、午後になって2人はその考えを改めざるを得なくなってしまった。授業が終って寮の部屋に戻ると、中のものがぐちゃぐちゃに荒らされていたのである。鍵ロックはしてあったが、無理矢理こじ開けたようだった。
それまで知らぬふりであった学園側も、ここまで来ると放っておくわけに行かなくなった。クラス担任は2人を呼び出し、事の次第を問いただしはじめた。ヒイロに話す気はまったくなく、しかたないのでデュオが曖昧な弁解を返した。
それで担任が納得するはずもなく、3日間の外出禁止を言い渡されてしまった。授業以外では、寮から出られなくなったのである。さらに、2人は棟すら違う別々の部屋に移されてしまった。
夜になってみんなが寝静まった頃、窓が開いてそっと抜け出す影があった。それは壁づたいにうまく隣の棟へ降りると、そのまま音を立てずに走りだした。闇夜に長い三つ編みが揺れた。
デュオはとある部屋の前まで来ると、そのドアをリズムをつけて軽く叩いた。短く3回。長く3回。そしてまた短く3回。
ほどなくカチャリと鍵の開く音が聞こえ、ドアにできた隙間にデュオはするりとその身を滑り込ませた。目の前に、ヒイロの怒った顔があって、少しほっとする。
「良かった。違ってたらどうしようかと思ったぜ。けど気付いてくれてさんきゅ」
もっとも、さっきの「SOS」を理解できるのはこの学園でも自分とヒイロくらいだと踏んでの事だ。何しろモールス信号が廃止されてから200年はゆうに経つ。追い出そうとするヒイロに、デュオは慌てた。
「あ、謝りに来たんだよ。もとはと言えば俺のせいだろ」
「だから?」
「おい、そりゃないだろ。責任感じてるんだぜ、これでも」
「謝って済むのなら、俺はこんなところにいない。……邪魔だ、出ていけ」
「何だと!?」
「騒ぐな、面倒だ」
普通なら負けじと言い返すデュオも、ヒイロの前にはかなわない。ていよく追い払われてしまった。胸のいきどおりのおさまらないまま、デュオは自室へと戻った。
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