2人は廊下を歩いていた。前後にクラスメイト達も。途中にあった椅子に何故かウケながらも、教室へと急ぐ。
「学園生活もなかなか楽しいな」
とヒイロに話し掛け、デュオは教科書を左手に持ち替えた。
右手だけで器用に第一ボタンをしめる。
さきほどの化学の授業は、教師の許しを得て、みんなボタンをはずしていた。ガスバーナーを使う実験だったこともあって、閉め切った化学室には熱気がこもっていたのだ。
次は数学の授業だ。教師はとても業務熱心校則忠実であるから、きちんとした格好をしていないとすぐさま注意されてしまう。あまりに細かく言うので生徒の間ではけむたがられているが、本人にその自覚はない。
「そーいや俺、数学の宿題やってねえや。ヒイロ見せてくれよ」
教室の前まで来て、デュオが気付いて言った。ヒイロは無視して教室に先に入った。
「ちぇっ。けちな奴」
デュオが後に続き、2人は自分の席についた。……否、着こうとした。
着けなかった。椅子が、2人の机とともにあるハズの椅子が、
ぽっかりと空白を残してなくなっていた。
「え? ……て、まさかさっきのアレか!?」
デュオは、廊下に重ねられて置いてあった椅子を思い出した。あれは確か、地学室の前だったと記憶を辿る。
「おいヒイロ、取りにいこうぜ」
デュオは手にした教科書を机の上に置き、ヒイロを誘った。急いで走れば、授業前には戻ってこられるだろう。間に合えば良いが。
だが2人が椅子を片手に教室に戻る頃には、チャイムが鳴り終っていた。こっそりドアの隙間から覗くと、早くも出欠の確認をしはじめているのが見えた。後ろのドアから入ろうとした時、自身の名前が連呼されるのを聞いた。そして意外な反応も。
「マックスウェル! デュオ・マックスウェル! いないのか?」
「デュオ君は今、ヒイロ君と一緒に破壊活動に勤しんでま〜す」
「……何の話だ?」
「だってあいつらパイロットなんだろ、ガンダムの」
「まだ子供なのに大変よねぇ〜」
どっと笑いの渦が沸く。どうやら、良からぬ噂が広まりつつあるようだった。
「悪イ、ヒイロ。やっぱこの前の聞かれてたみたいだ」
デュオが謝るが、ヒイロは答えない。未だ笑いの中にある教室に入るわけにもいかず、2人はその日、残りの授業を全て休んだ。
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