雲がゆっくりと流れていく。
教室の後ろのほう、窓際に席を持つ少年は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。何を見るでもなく、何か考え事をするように。いつもの癖だ。
朝の学活ホームルームの時間まで、まだあと5分程ある。教室は生徒たちでにぎわっていた。喧騒の中、その少年のいる空間だけが、音を失ったように静まりかえっていた。いつも同じだ。
その時、2人の生徒が、教室に飛び込んできた。わっと喝采があがり、なんとか遅刻を免れたその2人もまた、クラスの騒がしさにすぐにとけ込んだ。よくある事だ。
チャイムが鳴り、教室が一瞬、黙り込んだ。しかしすぐにまた、元のように騒がしくなる。少年は「煩わしい」と感想を洩らした。心の中で。いつもの事だが、相変わらず視線を外に向けたままで。
しばらくしてドアが開かれ、誰かが入ってきた。その者は教卓を、手にした書類で2、3度叩いた。すでに習慣と化しているのだろう。
「静かに! 各自、席に戻りなさい」
少年は顔を黒板に向けた。入ってきた時点でわかっていたが、それはクラスの担任だった。生徒たちはバラバラと言って散っていくと、次々に着席した。いつもの事だ。何もかも。
ただ今日は、ちょっと違うようだ。担任の横に、1人の少年が立っていた。転入生なのだろう。だが見知らぬ顔ではない。栗色の、長く腰まである三つ編みを揺らしている少年。
「今日からこのクラスの一員となるデュオ・マックスウェル君だ。わからない事があれば、すぐに教えてあげるように」
担任は簡単に紹介すると、その転入生に席につくように言った。少年の後ろにある、空いた席を指して。転入生──デュオは、机と机の間を進みつつ、クラスの女の子たちの挨拶に答えていった。
そして自席に着くなり、前席の少年に軽く声を掛ける。
「よぉ、久しぶりだなヒイロ。偶・然、お前と同じクラスになれて、俺嬉しいぜ」
冗談なのか本気なのかわからない台詞に、少年──ヒイロは、無視を決め込んだ。
「え?ヒイロ君を知ってるのぉ?」
「あぁ、まぁな」
女生徒の黄色い声にうつつを抜かしているだろうデュオに、ヒイロは毒づいた。
「莫迦ばかが……」
もちろん、心の中で、だ。
「そこ、いい加減に静かにしなさい」
担任に言われ「はーい」と大人しくなる生徒たち。
「えー、今日の連絡は3点。まずはこの間の……」
とりあえず、いつものように学活ホームルームが開始スタートした。
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