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  我が子よ                  
 
消えゆく灯の最後の揺らめきを目にするまで       1999.06.01



 閉じられた心に。
 知らぬ間に集った数名の仲間。自分を護るために供にいく仲間。
 そう、一筋の光が照らすように。
 閉じられた心に、消えゆく灯がともる。


 切ったばかりの髪が、陽に透けて赤く見え、風の動きに弄ばれた。
 ゼパム・ファラウドは、巨大な建造物を目前にして、少しの間動かずにいた。思えば、この五年、様々なことがあった、と、感慨にふけっていたのだ。そんなことを考えるようになった自分に、驚きを覚えながらも。
「何やってんだ、ゼパム。早く入ろーぜ」
「らしくないなぁ。迷うなんて」
 振り返れば延々と砂漠だけが続いていて、そこに立つ仲間達の姿が目に止まる。
「そう…だったな」
 ゼパムはゆっくりと息を吐き出し、目の前の壁に手をかけた。
「ラトアスド…」
 最後の扉よ。異界の言葉でそう呟くと、ぎぃ…っという物質的な音とともに、壁が開いていった。石を感じさせる肌触りの壁が、まるでそこに扉があるかのように、少しずつ隙間を広げていく。中は暗い。外からでは何も見えない。
「僕が行こう」
 内側へ足を踏み出しかけたゼパムを止めて、オリシエスが言った。何も疑ったことのない茶の瞳が、まっすぐにゼパムを捕らえる。
「わかった」
 目を伏せてゼパムは答え、場所を譲った。オリシエスが暗闇に消えてすぐ、目の前を銀の髪が通り過ぎた。一つに束ねられた後ろ髪が、背に揺れるのが見える。
「ティスト!」
「オリシエスばっかずりーじゃん。俺様も先に行くぜ」
 振り返りもせずに、ティストはひょいっと飛び込んだ。やれやれとばかりに、ゼパムもその背を追って中へ入る。思ったより更に、暗く広い。少しの段差につまづきそうになり、オリシエスに支えられる。

 ゼパムの後に、続けて何人かが着地する気配が伝わってきた。
「…あっ」
「ミンちゃん、大丈夫?」
「うん。へーき。少し低かったから…」
「…シェラル、邪魔だ。ぶつかるだろう」
「あ、コルカごめんよ。って、ヒサメ上に乗るな」
「我は何もしておらぬ」
「あっそ。…あ、ゼパム、全員揃ったよ」
 淡い緑色の瞳が、陽気にそう告げた。

「では、いこう」

 思ったよりも暗く広かったが、思ったよりも不安ではなかった。ゼパムは頭の中に響く音に導かれながら、迷わずに進んでいく。すぐあとに続く、六人の仲間達の信頼を、裏切ることなく。


 しとしとと冷たいものが、あとからあとから降ってくる。凍えそうで。消えてしまいそうで。その空虚感に身震いした。
 影が差して顔をあげると、漆黒の瞳に自分が映った。まぶたにたまった水滴が、ほおに溢れるのを感じた。一筋のしずくが、すぅっと落ちる。
「…誰?」
 でも誰でもよかった。自分を見てくれる人だったら、名前なんかどうでもよかった。慌てて、首を振る。
「いいの。名前なんか、どうでも。…ただ、お願い、いかないで」
「あなたに用など無いが…断る理由も無いな」
 瞳と同じ漆黒の髪を、長く伸ばして編んであった。青年は肩から前にそれを流したまま、ほどけてくる前髪を、ぱさっとかきあげた。そこに、小さな紋章が、一瞬見えたような気がした。青年が隣に腰を下ろし、ぽつんと呟いた。
「私も…呪われた身だ」
 はっと身を固くして、自分の心を閉ざした。
 しばらく黙って、青年は言った。
「私の名はコルカ・バーラーク。どうでもいいと言うのならば、忘れればいい」
 青年はその漆黒の瞳を、すぃっと細めてささやいた。


 ぽ…たん……ぽ…たん……ぽ…たん……

 踏み出す度、足に激痛が走る。だらんとした右腕を抱え、半ば動かない左足を引きずって、少しでも遠くへと、離れようと歩き続ける。

 怖かった。恐ろしかった。淋しかった。悲しかった。……独りだった。

 身寄りのない子供なんて、誰もかばってはくれなかった。みんな自分のことに精一杯で、他人のことなど考える余裕もなかった。大人達は自分の子を連れ、子供達は友達と手を繋ぎ。そして逃げていった。身寄りのない子供、一人だけを残して。
「痛い…よう…」
 涙をぐっとこらえて、飲み込んで、少しでも遠くへ離れようと、ひらすらに歩き続けた。のどが乾き、体力も限界を越えた。それでもただがむしゃらに、歩き続けた。
 ふ…っと目の前が暗くなり、次の瞬間、地に突っ伏していた。立ち上がろうにも腕に力が入らない。
「嫌だ…」
 こんなところであきらめるのは。
 何とか起き上がろうと、顔だけでも前を向く。そこに、茶の瞳が見えた。心配そうにのぞく瞳が、同色の髪の下に陰る。
「…動けるか?」
「う、うん。まだ…少しは」
「無理をしちゃいけない」
 貸された手は温かく。そのぬくもりは優しく。けれど発せられた声は、どこか物悲しく。
「僕はオリシエス・トル。騎士だったけど、わけありで今は傭兵やっている」

 何も疑ったことのない瞳は、静かに。
 血の滴る右腕に、即席の包帯を巻いた姿を、映す。
 握られている手のひらに、小さな紋章が見えたような。


 ただ流れていく白雲が見たかっただけで。
 見知らぬ森の、大樹に登った。
 上に行けば行く程広がる視界。ただそれだけが楽しくて、夢中で枝を掴んだ。
 いつの間にか。降りられないほどに広がっているとは思いも寄らず。下界を見つめて呟く。
「どうしよう…」

 ただ流れていく白雲が見たかっただけで。
 足下をすくわれるような澄んだ青空へと、飛び込むことになろうとは思ってもみなかった。青から緑へ、そして茶の大地へ。上手く立てずに転び、ようやく起き上がると、少年がいた。
 空のように蒼い瞳が、大きく見開かれる。
「君…今、降りてきたの、君?」
「うん」
「自分はミン・テンだよ。…君は?」
 切りそろえられた茶の混じった金の髪が、少年のほおをなでた。首筋に薄く見えたのは小さな紋章。肩より手のひら分長い髪が、風に乗ってくしゃくしゃになった。その髪の狭間に、三角の尖った耳が動いた。


 何もしていないのに、目があったとたん、睨まれた。
 何もしてこないが、獣の眼光は鋭く、ただ一点のみに狙いを定めていた。
 逃げることも…動くこともかなわずに、立ちすくむ。足が震え、声も出なかった。
 何もしてこないが、獣は、少しずつ近づいてきた。ゆっくりと、まるで抑えきれぬ恐怖心を煽るかのように。
 動いたら襲われそうで、叫んだら殺されそうで、じっと立ちすくむ。
 獣の顔がくぃっと沈んだとき、もうだめだと思った。ぎゅっと目を瞑り、手のひらを握りしめた。大地を蹴る確かな音がして、獣があげる咆哮を聞いた。間をおかず、ほおや腕や露出した肌に、生温かいものが貼り付いた。
「おい少年、大丈夫か?」
 声にそっと、まぶたを開く。まだ若い男が、立っていた。陽の光を反射して、さらさらの白金の髪が、きらきらと輝いた。
「…?」
「もう、獣はいないよ」
 まぶしくて目を細めると、淡い緑色の瞳が陽気にそう告げた。

 よく見れば、男の右手に赤く染まった剣が握られていた。その後ろには、さきほどまで自分を呪縛していた獣が、横になって倒れていた。
「実は昨日から狙ってたんだけどね、こいつ。けっこう手強くってさ」
 男は左手を差し出して、震えの止まらない自分の頭を軽く撫でた。袖の隙間から、肩にある小さな紋章が見え隠れした。
「俺はシェラル・ナムノス。これでも剣士なんだ」
 その辺の草で剣についた血を拭き取ると、それを丁寧にさやに納めた。男は、生き物を殺めたばかりだというのに、やはり陽気に笑った。


 道ばたで袋を拾った。しっかりとした布地で出来ているその中に、幾らかのパンが入っていた。もう何日もロクなものを食べていなくて、空腹に耐えかねた頃だった。
 袋の中に手を入れ、パンを一つ取り出したとき、突然目の前に現れた者に、その勢いで殴られた。転倒し、痛むお腹をおさえて起き上がると、自分より幾つか上くらいの少年が、袋の中をのぞいていた。
「へー。思ってたよりいいモン入ってんな…」
 少年が、何気なくこちらを向き言った。
「言っとくけど、これは俺様が先に見つけたんだぞ。ま、どっちにしたって、お前のもんは俺様のもんだが」
 見せびらかすようにパンを口にくわえ、さも美味しそうにほおばった。やーい。そんな声が、聞こえてきそうな、しぐさ。
「……」
「なんだ? 欲しいのか?」
 何も言えずに見ていると、そう訊かれた。うなずくと、少年はしょーがねぇなぁとでも言ったようだった。口をもごもごさせて、また袋の中に手を突っ込み、パンを出して放り投げた。
「ほらよっ」
「あっ。…ありがとう」
 久しぶりに食べた味は、思ったよりさっぱりしていたけれど。
「で、お前なんていうんだ? 俺様はティスト・パッドっていうんだぜ。覚えとけよな」
 いたずらっこい瞳は、海のように深い碧をしていた。銀に光る長めの髪が一つに束ねられ、無造作に背に流されていた。その髪を少年自身がなでたとき、右手首の内側に、小さな紋章がくっきりと見えた。


 竜が暴れるがごとく。吹き抜ける風が強い。ややもするとさらわれそうで、周りの木立ちが傾く度に、大地を踏み締めた。
 髪が乱れ、目もあけられぬくらいに吹きつける風が怖くて。
 物が飛ぶ。砂や土や破片や木の枝やらが宙を舞い、自分へと降り掛かってくるようで。少しずつ後退しているのに、突風の中心へ移動しているようで。

 怖くて。

 そのとき白い大きな塊が、上昇するのが視界に映った。はっとしたときには遅く。それが突如目の前に現れ、耳をかすめて後方へ墜ちていった。一筋の赤い流れが、ほおを伝う。触ると生温かく、細長い一筋の傷。それを、人さし指で何とはなしになぞった。

 不意に。
 風が、止んだ。

 荒れ狂う風の姿は見えているのに、突然感覚がなくなる。自分のまわりの大気だけが静まり返り、嘘のような現実が訪れたよう。
 と、ほおに冷やりとしたものが触れた。驚き、振り向くと、紫がかったまっすぐな髪を肩やら背やらに流した人が、その手を自分のほおに差し出していた。
「主よ。あなたの御心のままに我らはいく」
 聞き慣れぬ言葉が流れ、その人は一筋の赤い筋を指でなぞった。その人の髪が、一瞬、ふわぁっと舞い上がる。冷たい感覚が気持ちよかった。傷が塞がれていったことを、無意識のうちに知った。
「あの、ありがとう…えーと、…あなたは?」
「我が名はヒサメ・シューリ。神に仕える者」
 黒い瞳が、何かの光を反射して、一瞬紫に輝いて見えた。何も映さない混沌の色。
「汝は誰ぞ…?」
「ぼくは、…ゼパム・ファラウド―――七つの星を紡ぐ者」

 風が吹いた。
 陽に透けて赤く見える髪が、風に乗って舞った。
 ゼパムの太陽のような緋の瞳が、ゆっくりと閉じられた。










 想い描く そのときのことを









 辛いこともあった 悲しいこともあった
 けれど いつのときも
 そばに仲間がいた
 知らぬ間に集った数名の
 自分を護るためともにいく
 六人の仲間達
 皆と共に
 消えゆく灯の、最後のゆらめきを目にするまで
 生きることも
 死ぬことも一緒だ

 それが
 運命〈さだめ〉なのだから―――……




 壁を抜けてから、どのくらい歩いたのだろう。気が付けばすでに、あたりにいくつもの死骸が積み重なっていた。思わず、歩む足が止まる。
「ゼパム、これ…」
「ああ、オレ達より先に入った者の、成れの果てだな」
「…彼の者達に、ご冥福のあらんことを…」
 ヒサメがそっと、聖印を切った。その数秒を待ってから、ゼパムはまた、進みだした。
「行くぞ」
 そして六人が続く。何の不安も抱かずに。彼らは固い信頼で結ばれているのだ。

 やがて視界が開けてきた。
 コルカは右手をかかげ、かろやかに呪文を唱えた。
「阻むものよ。我々は止まらぬ。我々の運命さだめは、何人たりとも揺るがせられぬ」
 その呪われた力故に迫害を受けた彼は、その呪われた力を信ずる者のために使う。そう決めた。あの雨の日、運命に逆らうことをやめ、己自身を受け入れたあの日から、彼は他人のために力を使いはじめていた。
 コルカの声とともに、曇った白い膜が、彼ら全てを覆った。そしてだんだんと薄くなり、色が消え、無色へと変わった。ただ見えないだけの壁は厚く、力が行き渡り、そう簡単に破れるはずはなかった。
「やっぱ魔法ってのは便利だよなー。くうっ。俺様も一度でいいから使ってみたいぜ」
「無理だ、ティスト。あなたは我慢や忍耐ということを知らない」
「自分も…そう思う…」
「あっ。ミン! お前、可愛い顔してて、すましてンなこと言うんじゃねぇっ!」
 ティストは迫害されたことないからわからないんだ。コルカとミンは、そう、目配せし合った。
「何を騒いでいるのだ?」
「何でもないことだよ、ゼパム。君が気にとめる程のことでもないさ」
 オリシエルが代わって答え、あんなの放っとこうよと、シェラルもうなずいた。






 終わりには遠く はじまりには近く
 我らの運命〈さだめ〉はそれすらも予想して
 最初から星々の輝きを奪い
 真実なる扉を封じたまま
 ただ延々と
 廻り続けていく

 消えゆく灯の、最後の揺らめきを目にするまで





 広がる寸前の光が彼らを包む。弾けた輝きが彼らの視界を埋め尽くす。

「ここは…?」
 誰ともわからぬ声が耳元でする。姿こそ見えないが、質量のある言葉。
 自らの瞳がものを映すようになると、そこには無数の獣が蠢いていた。淡い光を伴ったもの、三本の尾を揺らすもの、背に羽根をはやしたもの、固い鱗に守られたもの、武器を片手に歩くもの、宙に浮いているもの…。どれをとってみても、それは決して普通の獣などではあり得ない。
「魔獣…か」
 いつもは陽気なシェラルがうめき、表情をさっと険しくした。
「これ程いるなんてな…」
「こんなの想像できてたらすげぇよ、それ」
「確かにあなたには無理だ」
「なっ。またお前かコルカ! さっきから黙って聞いてりゃ俺様の文句ばっかり言いやがって!」
「嘘だぁ。黙ってないよう」
 ミンが小さく抗議した。
「うるせぇ。言葉のあやってやつだろ」
「おい、少し静かにしろ、ティスト。気付かれてしまうぞ」
「へっ。そりゃ望み叶ったり、だ。俺様は今、すげぇキゲン悪イんだよっ」
 言うが早いか、ティストは駆け出した。眼下に広がる魔獣の群れへと。その手にはいつの間にか、抜き身の剣が握られていた。
「ティスト!」
 仲間の名を呼称する声も聞かず、ティストはただ一直線に、駆けていく。
「一人で行くなんて、無茶するなっ」
「ふんっ。いらねー心配するな。一人で死んだりなんか、出来るわけないだろっ」
 シェラルの言葉にだけは敏感に反応を示し、本当にティストは、魔獣の群れへと躍りかかっていった。
「ゼパムさん! このままじゃ、ティストが…」
 ミンが悲痛な声をあげた。オリシエスがうなずき、ゼパムを見る。
「一人では死ねないよ、僕たちは」
「あたり前だ」


 それが、運命〈さだめ〉なのだから


「我らが目指すは更に奥。だが、やむを得ん。強行突破だ」
 ゼパムが、そう告げた。
「任せておけ」
「そうこなくっちゃね」
「私も力を使おう」
「自分も頑張るよ」

「主よ。あなたの御心のままに、我らを導きたまえ…」
 ヒサメの祈りの言葉を合図に、皆、一斉に駆け出した。ただ一人先陣を切って魔獣の群れに飛び込んだ、ティストを追って。





 それはいつの日だったか。
 笑う程知らぬ過去まえ
 運命さだめを言い渡されたのは。


「お前はまだ死ぬわけにはいかぬ」

「なんで? ぼくはもう、疲れたよ…」

「それはお前が弱いからだ」

「だって…」

「強くなれ。己に負けるな。心を強く持て。常に強くあれ」

「なんで? ぼくはもう…」

「お前は、」


 一息の呼吸。
 深く吐き出す言葉は静かに。


「お前は、星を統べる者なのだよ、……ゼパム」


 すべてのことが崩れる程忘れた未来さき
 それはいつの日だったか。
 言い渡された運命さだめが、動きはじめるのは。




 神に仕えるヒサメの祈りが、その紡がれた言葉が響く。ティストとシェラルとオリシエスの、それぞれの剣が宙を舞い、弧を描いて振り下ろされる。獣の化身たるミンの咆哮が辺りを揺るがし、聞く者の心を震わす。魔法使いのコルカが奏でる旋律が流れ、その力の効果を拡大していく。
 ただゼパムだけがそれらを見守り、魔獣にも襲われることはない。

 運命さだめが彼を守っていた。彼は運命さだめに守られていた。だがもうすぐ、運命さだめの守るべき本来のものが、見えてくるはずだった。

 彼らは戦う。六人の仲間達は、いつ果てるとも知れぬ戦いを繰り広げ、休むことなく動き続けた。力尽きることはない。運命さだめが彼らを守っていた。

 死ぬときは一緒だ。
 大丈夫。
 一緒に死んでしまうのだから、安心していけ。

 それが運命〈さだめ〉なのだから


 声を聞いた。
 自らの生きる術を失い、半ば絶望しかけたあの日、ゼパムは声を聞いた。
 それは一筋の光。輝きに導かれるように、子供だった自分を捨てた。
 五年前、心も想いも記憶も捨てた。それが運命さだめだと割り切って、戦いの中に身を投じ、今日までを生きてきた。
 何も感じず、何も思わず、何も思い出さず、五年という歳月を過ごした。

 六人の仲間達、皆と共に。
 知らぬ間に集った数名の
 自分を護るためともにいく。

 皆と共に。
 生きることも。
 死ぬことも一緒だ。
 消えゆく灯の、最後のゆらめきを見届けるまで。

 それが運命〈さだめ〉なのだから


 いつの間にか喧噪は止んだ。戦いは終わり、魔獣達は倒れた。六人の仲間達だけがそこに立ち、自らの葬った魔獣達を見やる。
 この小さき最後の戦いに、勝利したのだ、自分達は。
「ゼパムっ」
「ゼパムさん!」
「なぁゼパム」
「ゼパム殿…」
「ゼパム君」
「ゼパム……っ!」
 彼らは口々に名を唱え、ゼパムのもとへと走り寄った。



 星は揃った。
 すべての星は揃い、余計なものは何もない。
 ゼパム・ファラウド―――七つの星を紡ぐ者。
 あのときの少年は、こんなにも育ち。



 動き出す、運命〈さだめ〉



 終わりには遠く はじまりには近く


 ゼパムの緋の瞳が、ゆっくりと開かれる。
 そこに映し出されたは、七人の崩壊する運命さだめ
 瞳から発せられた光が一点を指し示し、それはやがて大きく膨らんでいく。
 鋭い緋色の光が辺りを覆い、彼らの体を包み込み、視界を閉ざしていく。


 それはまるで血のように紅く。
 それはまるで炎のように緋あかく。


 包み込んだ彼らから、少しずつ力を奪っていく。少しずつ命を削っていく。


 それはまるで悪魔のように赤く。


 力は集い、浄化作用を伴った輝きに変わる。それは広がり、果てることなき大地と天空へ手を伸ばし、生きとし生けるものに潤いを与える―――恵みの雨となる。

 この荒れきった世界を救うために、元の豊かなる緑を取り戻すために、星となった七人の仲間達。
 星になるべく選ばれた者達。小さな紋章の刻みつけられたが、その証し。



 死ぬときは一緒だ。
 知らぬ間に集った数名の仲間。世界じぶんを護るためともに逝く、仲間。





 我が子よ。
 それが運命さだめ
 消えゆく灯の最後のゆらめきを、にべもなく壊すまで


 燃え上がれ、浄化の炎よ。


 それはまるで血のように紅く。


 強くなれ。常に強くあれ。

 お前のその心の強きが、生きとし生けるものに潤いを与える―――恵みの雨となる。












 我が子よ。

 それが運命さだめ













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