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奇 跡 の 柱 輝 石 の 柱

プ ロ ロ ー グ

――――世 界 の 何 処 に か ひ と つ の 扉


白む
Wo

る世界
rld under the white


 闇すら薄れるほどに底無しに暗い。その黒漆の眼差しで見つめる先に海がある。
 陸があり、人がある。人の営みがある。
 すべてをのみこむほどの巨大な狂気。怒りにも似た風の中を、眼差しは、しずかに。
 その口元は、しずかに。
 すべての沈黙を制する、言葉を紡ぐ。ただ一言、「    」と。

【 ケ ッ カ イ セ ヨ 】

 その瞬間、突風が頬を叩き、礫が足元を駆け抜けた。








□□
 光のない世界がある。闇が、深く、どこまでも果てなく続いている。
 一面に広がった闇のなかで、何も見えない世界で、それでもうごめくものがある。時間を持たぬ命が、光を知らぬ魂を宿す命が、何かを求めて移動していく。
 どこが果てともわからぬ闇の、まん中のあたりには、意思を持つものがいた。それはかつて知っていた刺激を求めていた――光、と呼ばれる力だ。
 それは光を失って久しい。
 だが、とうに忘れたはずの光の匂いを、不意に思い出していた。
 唐突に蘇る、鮮やかな光景。
 光に包まれた世界。
 その刺激の力強さを思い出して、それが急に身震いをする。震えは波のような振動となって、音をもって闇の世界に拡散する。
 不可視の世界が共振する。








□□
「ばかな!」
 ローブがはためく。裾の長い、そのゆったりとした礼服には、あちこちに破れ目がある。
「なぜ、お前がここにいる?」
 長い髪が風に揺れる。爆発の余波を伝える大気の振動、熱風が吹く。
 ごおおおっと吹き抜けてゆく、大気の嗚咽。声にもならない悲鳴をあげて、風が哭く。
「呼ばれたからさ」
 憎悪をはらんだ声音が、大気を震わす。
「我が名は――――」
 そこで希望は途絶え、絶望が始まる。








□□
 そこは白くかすむ世界。
 降りしきる細かな雨がつくりだす、不透明で濁った白さ。しかし世界を覆うのは、霧ではない。
 光でもない。 
 それは白い闇だった。どこもかしこも白い。その中を獣けものが、異形の姿をした獣どもが這ってゆく。彼らの決して届くことのない高さに天はあり、その存在を知るはずもない獣らが下界を徘徊している。
 振動が、伝わる。
 突然の軽い衝撃と、連続した揺れ。
 立ち止まり、見えるはずもない弱い視力で、獣らが見上げる。天は高すぎて知覚できない。しかし何か冷んやりしたものが、そこここに溢れ出したのは、わかった。
 気付けば、ひと筋の光が差し込んできていた。
 それは白かったが、自らを覆う闇の白さとは違う。
 不確かで曖昧でつかみどころのない闇と違って、その白は確かな存在感を持っていた。徘徊していた異形の獣どもが、吸い寄せられるように白いもの――光へと群がっていく。
 光の中は冷たくて、そしてどこか落ち着かない。だから彼らは這っていった、光の中を。自らを包む言いようのない違和感をぬぐい去ろうとするかのように、急かされるように。
 そうしてくぐり抜けた先には、彼らの見知らぬ世界が広がって――




プロローグ 完
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第1話「空翔る竜の島」
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