L2のC308コロニー内にはスクラップ屋が軒を連ねている。この辺の宇宙そとにはたくさんの廃品スクラップが散らばっており、仕事に便利だからだった。また、身を潜めるのにも好都合だった。デュオのいた組織スイーパーグループも、このコロニーを拠点にしていた節がある。彼ら宇宙廃品回収屋スイーパーグループにしてみれば、このC308コロニーは第二の故郷みたいなものだった。そんなことをヒイロが思い出したのは、その辺に浮かぶ廃品ゴミの中でも飛び抜けて大きいかけらに、シャトルを横付けしたときだった。飛び移った先はかなりの大きさの巡洋艦のようだった。捨てられて日が浅いのか、それほど汚れてもいない。
無人の通路を慎重に進みながら、ヒイロは片っ端からドアを開けていった。すべて開けたのに誰もおらず、やっとそこが2階だと気付く。ハッチをくぐって1階に降り、ヒイロは通路を前に進んだ。操縦室パイロットルームのドアを見つけ、ゆっくりとドアノブに手をかける。
息を殺し、銃を握りしめ、一気にドアを開放した。だが素早く銃を構えた先には、見知った顔があった。一割くらいの予感が的中し、驚く前にヒイロは少し安堵感を覚えた。そしてすぐに表情かおを険しくする。
目の前にいたのは、無重力空間に茶色い三つ編みを泳がせた、デュオ・マックスウェルその人だった。探しても見つからないくせに、探さないときに突然現れる奴だ、とヒイロは心の中で毒づいた。声のトーンを落としてつぶやく。「こんなところで何をやっているんだ」
「‥‥‥お前、待ってた」
一瞬言葉につまって、ヒイロは話題を変えた。
「リリーナは」
「お嬢さんなら怪我してたんで病院行ったよ。あのノインっていう人と一緒に」
「どういうことだ」
「だからさ」デュオは制するように手を振って、ええと、と続けた。
「俺はお嬢さん‥‥‥ドーリアン外務次官がシャトルごと誘拐ハイジャックされたことは知らなかったんだけど、偶然見つけちまったんだよ」
デュオは現在この辺の宇宙そとでフリーのジャンク屋を営んでいた。今日もいつものように廃艦スクラップを見つけ、久しぶりの大物だと喜び勇んで持って帰ろうとしたら、中に人がいたのだ。それは廃艦ゴミに見せ掛けた古い巡洋艦で、中に乗っていたのは数名の男達と、リリーナとノインだった。
デュオはすぐに異変に気付き、男達と銃撃戦になったのだという。ガンダムのパイロットだった彼なら、4、5人の大人などとるにたらないものだった。急所ははずして全員眠らせてあるのだとデュオは話した。
「で、お嬢さんは怪我してたんで、ノインがコロニーの病院に連れていったよ。向こうコロニーで本部プリベンターにも連絡コンタクトとるって言ってたぜ。お前にはお達しなしか?」
「いや」ならば先程のノインからの通信がそうか。ヒイロは苦笑いを浮かべた。デュオはめざとくそれを見て言った。
「へぇ。お前、前より笑うようになったんだな」
茶化されて、ヒイロはむっとした表情になる。
「なんだよ。怒るなよ、そんなことで」
「連中の正体は」ぼそっと問うヒイロに、デュオはちぇっと不満をもらした。
「よくわかんねぇけど。お嬢さん殺そうとしてたのは確かだな。あ、あとマリーメイアがどうとか言ってたな」
「デキムの仕立て上げたあの娘か?」
「たぶん、お嬢ちゃんマリーメイアを奪い返す人質にお嬢さんリリーナ使って、二人とも殺して、適当に口実作ってごまかして、また戦争おっぱじめようとしてたんじゃねぇの」
「死の商人か」
「そんなとこだと思うぜ」火種は早く消すに越したこたぁねぇよな、とデュオは締めくくった。ヒイロははっと気付く。
「プリベンター‥‥‥火消しの闇ダークというのはお前か?」
「お、ご名答だ。流石ヒイロ。よくできました」
「情報部プリベンターに所属しているのか?」
「いや、名前コードネームだけ。IDカードもらった関係でな。‥‥‥今でも俺はフリーだぜ」思いっきり含みを込めて言ったつもりのデュオだったが、そういうことに疎いヒイロに気付けるはずがなかった。デュオはめげずにねばる。
「さぁて、これからどうしますかね」
「捕えた者達を情報部プリベンターに引き渡す作業が残っているな」
にべもなく答えたヒイロに、デュオはずるずると力が抜けていくのを感じた。ったく何もわかっちゃいないんだな。心の中で、変わってないヒイロに呆れたような変わらない考え方が嬉しいような、複雑な感想を抱いだく。こいつに俺のほう振り向かせるのが一番大変な仕事だよなと勝手に考えながら、デュオは立ち上がった。
「痛つうっ」
右足首に走った激痛をこらえて、デュオはふらふらと操縦席パイロットシートまでの短い距離を歩く。ふとヒイロの視線を感じて振り替える。
「なんだ?」
「‥‥‥その傷はどうした」
「あ、これは銃撃戦やったときに撃たれたんだよ。あいつら足元狙ってくるんだぜ。素人じゃなかった」
「大丈夫か?」「‥‥‥え?」
一瞬その言葉の意味を測りかねて、デュオは大きく目を見開いた。
「お前‥‥‥人の心配まで出来るようになったんだ」
「前言撤回。何でもないならお前が操縦しろ」
「俺の技術をアテにしているからか?」「‥‥‥勝手にしろ」
冗談すら受け流すようになったヒイロを、ずいぶんと扱いやすくなったよな、とデュオは一人ほくそ笑んだ。なんだかんだ言って、廃艦とヒイロの乗ってきたシャトルを接続し、大気圏に突入しても燃え尽きない機体を、二人で作り上げる。ヒイロがL1を出てからカウントして地球が一回転し終える頃、二人はそれに乗って出発した。
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