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 大気圏を抜けたあと、小型シャトルはL4周辺をうろうろしていた。情報がまったくないことが、ヒイロを苛立たせていた。

 ドーリアン外務次官の発言権はそれなりの力があるから、シャトル強奪ハイジャックの相手に心当たる者は多い。少しずつ減ってきてはいるものの、そういった輩やからは決していなくなったりしない。それにドーリアン外務次官が殺されただけでまた戦争が始まれば、武器などを売って大儲けできる者もいるのだ。

「一体どの連中だ‥‥‥」

 答えのない問いを宙に泳がせて、ヒイロがシャトルの向きを変えようと操縦桿を動かしたときだった。開きっぱなしオープンにしておいた受信機に、ノイズ混じりの通信が飛び込んできた。砂嵐の画面は何も映し出さず、声だけが途切れ途切れに聞こえる。

「‥らプリベン‥火ファイヤー‥リリ‥様‥怪我され‥‥‥いる‥‥が‥代わり‥る‥」

「今何処だ?」
「‥ル‥コロニ‥Dエリ‥」

 そこで声が途絶え、あとにはザザザ‥という雑音ノイズだけが残った。ヒイロはしばらく待っていたが、やがて切れてしまった。肝心なところが依然わからなかったが、少しは情報が入ったので、ヒイロはいくらか落ち着いていた。

 L2ではDエリアが一番発言力が強かったと思い出し、一か八か行ってみることにする。シャトルをL2へと向けると、急発進させた。かかる加重にはおかまいなしに、いきなりスピードをあげる。万が一何か起きた場合に備え、一刻も早く駆けつける必要があった。いざとなればまた、火消しの火プリベンターファイヤー、ノインが連絡してくるだろうとも考えていた。




 L4から月の裏側のL2まで行くには、途中L1を突っ切るのが一番早い。地球〜コロニー間の行き来が自由な今、あの辺の区域は定期シャトルが往復し続けているが、ヒイロはその中を抜けるコースを進んでいた。ヒイロくらいの腕前なら、民間シャトルに迷惑をかけずに航路を横切るなど、簡単なことだった。

 相変わらず通信をオープンにしたまま、ヒイロは障害物をよけながらL2のDエリアに進路をとる。L1を抜け、前方にせまってきた月を大きく迂回していると、また何かが送信されてきた。画面は砂嵐だったが、言葉だけは明瞭だ。

「こちら火消しの闇プリベンターダーク。現在地Cエリア。至急応援頼む」
「待て。正確な位置は」

 しかしヒイロの問いより早く、通信が切れてしまった。ヒイロは急いで逆探知をかけると、C308コロニーあたりから発信されたらしいと見当をつけた。シャトルの軌道を微妙に修正し、一段と加速させる。プリベンター専用機だけあって、かなり高度な機能システムを積んでいるようだった。

「だが火消しのプリベンター‥‥‥闇ダークとはどういうことだ」

 ヒイロは情報部プリベンターの面々を思い浮かべた。ヒイロの把握している限りでは、コードネームを持つ者は、水サリィ、火ノイン、金レディ、風ゼクスの4人だけだ。新しい人員でも動員したのだろうか。ヒイロに心当たりはない。

 ノインからの連絡もないままに、ヒイロは自分が墓穴に飛び込んでいくような焦燥感にかられていた。




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