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 地球アースシンガポール宇宙港ポートに、予定より若干遅れてシャトルが到着した。大きな荷物のないヒイロは、連絡通路をさっさと抜けたが、そこに異様なほどにいる報道陣の姿を見つけ、しばし足止めをくらった。下手にカメラに映るわけにもいかず、仕方なく裏をまわって彼らをかわす。公衆電話テレフォンブースを探し出すと、この多すぎる報道陣がいる理由わけを知るために、情報部プリベンターへと繋いだ。

「誰?」

 ごく一部の者しか知らないはずの直通番号コードを使ったので、情報部むこうでも慌ててとったのだろう。声が緊張感を帯びていた。問いには答えずに、ヒイロは自分の用件ぎもんだけをのべる。

「シンガポール宇宙港ポートで何があった。尋常ではないこの人だかりは何だ」
「その声はヒイロね? こちら水ウォーターよ」

 サリィ・ポォか。ヒイロは心の中でつぶやいた。

「ちょうど良かったわ。あなたに頼まれてほしいことがあるの。L4行きのシャトルが強奪ハイジャックされたんだけど、乗っていたドーリアン外務次官が人質に取られているから、救出してきてくれないかしら」

 あまりに軽い口調だったので、一瞬何を言われたのか、ヒイロにはわからなかった。

「火ノインも乗っていたはずなのに、我々プリベンターも甘く見られたものね」

「相手の要求は」

 ようやく状況いみがのみ込めた頃、ヒイロは決してなくならない火種を消してまわる火消しプリベンター達が、こんなことに慣れてしまっているのだと気付いた。変に慌てるよりは、落ち着いて冗談でも飛ばしながらやるほうが気も楽なのだろう。

「要求は今のところはなしね。犯行声明だけはちゃっかりやってくれて、その騒ぎなのよ」

「了解した」

 ヒイロは受話器を置いた。何の用もなかった地球で、一仕事することになりそうだった。




 情報部プリベンターの手配してくれた小型シャトルに、ヒイロは一人で乗り込んだ。とりあえずはL4へと向かうつもりでいた。あの辺りにいけば、何か手掛かりでもつかめるだろうと、淡い希望を抱いだく。

「頼んだわよ」
「了解」

 サリィとの通信も切り、ヒイロはシャトルを発進させる。シンガポール宇宙港ポートから、予定にないシャトルが一機、宇宙そらへ向かって飛び立った。




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