雪消 煕らかな焉り
雪消 やわらかなおわり
薄暗い世界に一筋の光が横向きの直線となって延び、やがて、ゆったりと顔を覗かせたのは昼の空を支配する星。
陽の昇りゆく地平を、高き場所から見つめている女性がいる。何も無くなったその場所に毅然と立っている。否、足下には小さな墓標があり、昇りかけの陽を浴びて長く影を作っていた、そのずっと後ろにうず高く積もる瓦礫に手を伸ばすように。
艶やかな髪を腰のあたりまで波打たせている女性が、小さな墓標を従えて、陽に向かって立っている。
「ばかね…」
つぶやきは、まだ冷たい朝の風に運ばれていく。
相手に届くことのない言葉が、運ばれていく。
地上を遥か下に見据えて、天高き場所に建つ城がある。澄み渡る蒼い空を由来とし、「蒼天城」などと呼ばれたりもするその城は、裾を緑の絨毯で被い、樹木の太く頑丈な幹に支えられた地面ごと、宙に浮いていた。
下から見上げれば、奇怪な裏側が見えたことだろう。
根とも幹ともつかぬ樹木の腕が縦横に伸び、絡み合い、その上に建つ城の土台を支えている様は、見る者に不安を抱かさせずにはいられない。
しかし城が落ちてくる心配をするのは愚かなことだった。城の持ち主は古えから続く強大な魔法力によって城を支えていたが、その力の源が尽きることはなかった。
力の源が尽きることがあるならば、それは世界の終わりの後だろう、とさえ言われていた。
天と地の中間、そしてまた大陸全土の中央であるその場所に城を持っていたのは、髪に白いものの混ざりはじめた、齢五十を越える偉大なる魔法使いだった。彼の一族は神に近い天空に城を建て、竜の眷属までも従えた古えの昔から、大陸中でもっとも強き力を持ち得ていた。
それを孤独と言わずして、何を孤独と呼ぼう
数多の召し使いを抱えながらも心は空虚さを訴えている
人の気配を感じながらも自分の求める安らぎはない
そこにあるのは、耐えてきた孤独と灰色の空と
もう記憶から飛んでしまいそうな屋根を打つ雨の音だけ
――――声が聞こえた気がした私を呼ぶのは――――――誰だ?
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