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 正陽     プロローグ



 泣き声が聞こえている。.
 それは波打つ水面から程遠い場所。.
 この世に生を受けたばかりの、まだ目も見えていない赤児が泣いている。.
 見守るのは、頬を朱に染めた女性と、初老の男性。.
 女性が何かをつぶやいたが、それは声にはならなかった。.
 掠れた音が流れていって、しっかりと戸締まりされた窓にあたって消えた。.
 窓の外は風と雨とが暴れているはずだったが、屋根を打つ雨音は、赤児の泣き声にかき消されて聞こえない。.
 赤児がふと泣き止み、目を開く。.
 深緑色の宝玉が砂塵の中で揺れているような、綺麗な瞳をしていた。.
 その双眸に映し出されたのは大理石で造られた白い天井と彼の両親。.
 赤児は無邪気に笑い、目を細めて喜んだ。.
.
 陽が昇ろうとしていた、一日の始まり。.
 夜の明けきらぬうちに誕生した生命の未来を、憂うかのような不吉な色の星が、陽の側に控えている。.
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 壊れやすいガラスの美しさを.
 何故ヒトは望むのだろう.
 触れれば砕けてしまう脆い安らぎを.
 何故ヒトは守れないのだろう.




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