プロローグ
新月 ――――終わりの見えない、果てしない旅路
まだ見ぬ明日に、想い馳せて。
長く宵闇が続く、空に明るさはわずか。日が沈んだ後も一向に月は見
えず、星々の輝きも夜空を横切る雲に隠されて、弱く短く瞬くだけ。
風がかなりの速度で移動する。雲が追われて逃げていく。
後から後から連なる雲の向こうに、ちらり、と何かが光った。
灰色の影に包まれて、小さな煙が空へと昇るのが見える。機影がひと
つ、星の散る空を滑り落ちていった。
もしも月明かりがあったなら、シンプルな造りのエアシップが落ちて
いく姿が見えたことだろう。珍しい複座式のそれは、けれど一人だけを
体内に擁したまま、地上へと真直ぐに向かっていた。
左翼と腹から、黒煙を噴き出している。
すでに舵はきかない。それに中の人間のコントローラを握る手に力は
こもっていない。気を失っているのだ。
エアシップは真直ぐに地上を目指す、明るさのない黒の地を。
下には大海が広がる。
真っ黒な海面が続く先は、水平線に繋がっている。
空と海との区別はつかず、穏やかな水面に時折現れる、波の白さが目
立つだけ。音はなく、静かに静かに、けれど高く波が動く。
翼を持つはずの人工の魚が、失速したまま空を深く潜っていく。
機首を持ち上げることは、もう誰にも叶わない。
――我が姿に影おちるその瞬間に。
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