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 暗がりに淡く浮かびあがるモニターの前に、鼻歌が流れる。栗色の三つ編みを無造作に背に流して、自称・嘘は吐かないデュオ・マックスウェルはいつものように偽のIDを使って端末を操作している。
 他愛のない作業だ。
 物音一つない室内に、デュオのご機嫌な鼻歌と、キーを叩く音だけが静かに響く。
 L1コロニーで間もなく行われる式典に、OZの上層部が出席するという。目的は分からないが、身分を偽って、潜入するのも悪くない。何か新しい情報を掴めるかもしれないし。

 何度目かに画面が移ったとき、それは起きた。

 ビー!
「は? なんでだよ」

 ERROR、と古風な書体ではじき出された画面に、半分あきれながらデュオは思わず毒づく。
 デュオ・マックスウェルという名前の人間が、既にそのコロニーに存在しているという。
「…やりやがったな」
 そんなことをする人間は、デュオの知る限り一人しかいない。
 コードネームだかなんだか知らないが、やたら有名な名前のせいでコードネームの意図を成してないあいつだ。
「だからってオレの名前なんか使っちゃってさ」
 他の名前の候補を打ちながらふと、デュオはそいつの潜入の記録なんかを探すことを思いついた。名前は使えないけど、他に利用できるものがあるかもしれないし。





  い つ か は こ な い



 OZの上層部が出席するという式典は、そのコロニーで一番古い、老齢な学園で執り行われることになっていた。
 「デュオ・マックスウェル」は、その学園の生徒に成りすまして、校内をくまなく歩き回っていた。古い校舎は何度も改築を重ねてきたのだろう、重たい壁や柱が、ところどころ新しいものに入れ替わっている。
 銃撃戦をやるには、狭い。
 狙いやすいような高い建物は、周囲には無い。
(いい場所を選んだ、ということか)
「デュオ・マックスウェル」――その正体は、(デュオが踏んだとおり)ヒイロだ――は、一ヶ月も前に潜入して、学園の設計図を手に入れて、改修された箇所を細かくチェックしていた。一人でテロをやるには、少し心許ない。
 と、そこで予鈴の鐘が鳴り、真面目な一生徒を装うヒイロはきびすを返し、教室へ向かう。

 クラスメイト達に紛れて、無難な位置に席をとった。教壇には目をやらず、手元の本に視線を落としたフリをして、改修箇所を脳内に叩き込んだ設計図に付け加える。
「今日は、皆さんに新しいクラスメイトを紹介しまーす」
 のん気な声で、教師が言う。
 最近多いな、とは思ったものの、ヒイロは特に気にせず、
「アディン・ロウさんです」
 否、ぴくり、と眉間にしわが寄る。
 嫌な予感を覚え、ヒイロは顔を上げた。「転校生」が、なにやらメモを読み上げようとしている。
「太陽系に生物が生息することを奇跡的に可能にした惑星、それが――」

 がたん

 立ち上がりかけた自分をかろうじて制し、ヒイロは内心で叫んだ。
(冗談じゃない!)

 教壇の横にひょうひょうと立つ、長い三つ編みの男。
 
「それが地球である。アフターコロニー195年、コロニー開発において人間は――」

 そこから先を、ヒイロは聞いていなかった。
 聞かずとも知っている。その内容は、いつだったかヒイロ自身が転校の挨拶でどっかで述べたものだ。文書に残してなどいないはずなのに、どこで見つけんだ!
 そのいやに長い一時間を、ヒイロは持ち前の精神力で耐えると、真っ先に教室を出た。
 
 
 物凄い形相のヒイロに、デュオは呼び出されたが、それは予想の範疇だ。
「どういうつもりだ」
 質問まで、手に取るようにわかる。
「どうって、利用できるもんは利用する。おまえがいっつもそうしてるだろ」
「…お前を殺す」
「はいはい」
 デュオはヒイロのその言葉が実効性の無いものだと知っている。
「いつか殺す」
「すぐじゃないんだ」
「今は目立つからな」
 そういう、生真面目なところがヒイロらしいと思う。
「いつか、っていつだよ」
 銃を撃つ真似をしてみせた、デュオを、ふん、と一蹴して、制服姿の懲りないヒイロがきびすを返す。
「あっそうだ! ヒ…じゃなくって、マックスウェルさん? 式典は延期だってさ!」
「知っている」
「じゃあ何、それまでここにいんの?」
「他に何かあるのか?」
 怪訝そうな顔のヒイロが、可笑しくて、
「いつか教えてやるよ」
 コバルトブルーの瞳が悪戯な輝きで揺れた。
 
「…いつか、っていつだ」
 答えなんか無いと分かっているのについ聞き返した自分に、ヒイロは自分であきれた。
「OZは叩く。邪魔するようならお前も」
「邪魔なんかしないぜ」
(何が、嘘は吐かない、だ)
 何が本当で嘘なのかさえ悟らせない自称・死に神の罠に、はめられたんだと気づいた。



























あ と が き 。

 学園ネタにしてみました。
本編寄り後半あたり、ややパラレル。
あの転校のご挨拶はアドリブだったに違いない、という前提です。
二人とも追いかけてばっかりですが、今回はデュオの勝ち。
ではあと二日、頑張れるかお見守り下さい。(変な日本語。)

2008/12/23 飛尽拝






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