⇒「英雄譚」トップに戻る



 星が流れる。
 6年前のあの日も、今日も。



         邂 逅 す る 軌 道 






 雪、だ。
「今日は救世主サマの誕生日だったっけな」
 ちらちらと、細かい雪が降っている。
「くっそー。ついてねえな」
 外出を控えているというのに、この悪天候とは。
「何年前の話だ、あれは!」
 同じように悪い状況の中で戦った日々が思い起こされる。
「……同じだな」
 戦いは、終わっちゃいない。自分の中での自分との戦いは、まだ。
 ここに居て良いのか、それとも別の場所を求めるべきなのか、自分にはわからなかったけれども。
 もう一人の自分が、飛び出せとささやいている。
「行くかな」
 新しい環境へ、新しい戦場へ。
 そこに待つのが死か幸福か、行ってみなければわからない。自分で拓いてみるまでは。
「オレが生まれたのも、こんな日だったろうか」
 雪をもたらす空を見上げる。
 胸の十字架が、泣いたような気がした。




 雪、だ。
「……イヴ・ウォーズ、か」
 それは何年前の昨日のことであったか。
「俺は…」
 思い出されていく、真空世界での戦い。
「俺は…死なない」
 思わずつぶやかれた言葉を、自分は自分の中に持っていたのだろうか。
「……聖者のくれた平和など」
 何も知らない人々は幸せを享受することに何らの疑問も抱かずに。
 戦いは終わったと信ずる人々を影で支える者がいるとさえ気付かずに。
「誰も維持せずとも続く平和など」
 どこにあるというのだろう。
 それでも。
 その誰かとなって、名も顔も知らぬ同胞のために平和を守り続けることを、決めた。
 あるいは新たな平和を開拓することを。
 見知らぬ土地へ行くことは、これが初めてというわけじゃない。




 シャトルが一機、飛び立つ。
 地球の宇宙港を出たそれが乗るのは、火星へと続く軌道。
 流星は、一所に留まれない。
 ブイのない航路を進む船には、かつての英雄達が乗っている。


































邂逅する軌道 あとがき

 (前略)第5弾&最終日。突発だったのでストックも無いままに始めたので不安でしたが、
なんとか宣言通り5回続いたので一安心。今回の作品群全てものすごーく短いですが……。
最後の今日は、クリスマスネタをほのかに。あと実は好きな火星ネタを絡ませてみました。
火星ネタはほんと好きなので、もうちょっとちゃんとしたのを書きたかったです……嗚呼。
それではまたしばらく雲隠れになりそうなので、良いお年を、と言ってしまうことにして。

2001年12月25日。緋月 昴琉拝






⇒「英雄譚」トップに戻る