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 右手に銃を持つなら、左手に何を持つ?

 地球で最初に出会ったガンダムパイロットが聞いてきた。
銃だ、と即答してやると、おかしそうに笑ったのを覚えてる。



         右 手 に 銃 を 持 つ な ら 






 窓から見える、闇。
 絶対零度の世界が、その世界の大きさに比べて薄っぺらいプラスチックの壁に隔たれた向こうに広がっている。遠い遠い、時間も空間もわからなくなるほど遠い、未知の果てへ繋がる迷路。
 長い長い戦いが終わっても、機雷の残る、真空の世界を、音も無く飛んでいく。
 握りしめた操縦桿の感触は、アストロスーツ越しにしかわからない。
 自動制御にしてあるから、本当はそこに座る意味など無きに等しくても、ヒイロは操縦席にいた。
 左隣に、傍らに、助手席に眠るデュオ。
 目を覚ましたのか、何事かをうめいた。
 ヒイロが、思い出したように言葉を吐く。
「右手に銃を持つなら」
 デュオのほうを振り向かずに、続けた。
「左手に何を持つ?」
 昔デュオに問われた問いを、投げかける。
 あのとき即答で答えた自分を、やけに納得した顔で笑っていたデュオが思い出される。気付かなかった、笑われた意味を。今はなんとなく、わかるような気はする。理由を問えば笑いながらも言ったかもしれない、「おまえらしい答えだ」と。
 ならばデュオは? あのとき何と答えたのだろう?
「……」
 ヒイロが無言のまま待っていると、やがて、右の手を軽く握って、曲げた人さし指の付け根で鼻をこすろうとする仕種が、横目に見えた。けれどグローブをはめたままの指が、鼻に触れずに下ろされる。一連の動作が視界に入っても、ヒイロはデュオのほうを見なかった。きっとデュオもヒイロのことは見ていない。
 と、息を吸う気配が伝わって。
「左手に君を」
 素早く告げられた、その直後、デュオが首を振った。
「っばぁーっかじゃねえの、オレ!」
 一人で吹き出し、笑い転げるデュオにつられて、ヒイロも少しだけ、心の中でだけ笑った。



 右手に銃を、ならば左手には何を持つ?
 平和を。
 恒久でなくていい、ヒトが生きる60年の、そのまた半分の半分の長さでかまわない。
 ひとときの平和を。
 もしも許されるのなら。
 願ってもいいというならば、束の間の休息を、左手で手繰り寄せる、つかめるだけの安息を。


































右手に銃を持つなら あとがき

 突発企画! クリスマスまで毎日小説更新…の、第2弾。有言不実行にならずに済みました。
不意に思い付いた外伝ネタ。「右手に鎌を左手に君を」というあのフレーズが凄く好きで。
昔むかーしは、冒頭の文章をソラで言えるくらいには暗記してたのですが、今は駄目駄目。
冒頭はデュオサイドから残りの4人を見た設定になってますが、今回の話はヒイロサイド。
 ヒイロ視点のものはあまり書かないせいか、難しいです(むしろ逆? 難しいから書かない?)。
なんていうか今までに無く短いですが、次回はもう少し長いのが書きたい。と思うだけ…。

2001年12月22日。緋月 昴琉拝






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