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 窓が一つ、分厚いカーテンは左右に押しやられ、外の明かりを部屋の中へ取り入れている。
 ぐるりと周囲を見渡して、ベッドであぐらをかいてデュオは言った。
「しっかし狭い部屋だな」



         バ イ ク 便 






 ハワードから何の連絡も無いままに、デュオは無駄な数週間を過ごしていた。
 いや、多少は無駄ではなかったかもしれない。
 得意分野を活かして、運送屋でバイトをしていた。運び屋と言っても闇世界のことではなく、堅気の商売の手伝いだ。多少の小遣い稼ぎくらいにはなる。
 その日も、慣れない土地勘と走り書きの地図をかねたメモとを頼りに、荷物を運んでいた。トラックを借りるにはいろいろと契約書が面倒で、デュオはバイクを駆る。少しずつしか運べないが、裏路地も通れるほうがデュオとしても都合がよかった。
 開けた道に出る。公園を挟んだ向いに、白いアパートがあった。
「あれか…」
 つぶやいて、バイクをそのアパートの真下で停めた。それからデュオは階段をのぼり、伝票にかかれた部屋の前で、インターホンを鳴らした。
 数秒、待つ。
 開かれたドアの向こうに、間の抜けた顔で立つヒイロ・ユイの姿があった。
「は?」
 素頓狂な声を出したのはデュオのほうで。
 憮然とした顔つきに変わったヒイロは無言のままだった。
「なんでお前こんなとこにいんの?」
「それはこっちの台詞だ」
「…ちょっと待てよ」
 デュオは荷物を下に置き、伝票を確かめた。……部屋番号は確かにここだ。
 だが念のため隣の部屋のほうへ目をやり、表札を確認すると、伝票の宛先と同じ名前がそこにあった。
「なんだよ、差出人の間違いかよ!」
 小声でぼやく。デュオは荷物を抱きかかえると、
「と、いうわけで、じゃあな」
 さっさと場所を移動して、隣のインターホンを鳴らす。
 残されたヒイロは、なんだったんだ、と柄にもないことを呟いてドアを閉めた。
 相手が出てくるのを待ちながら、デュオはヒイロの部屋のドアが閉まるのを見ていた。ふーん、と呟く顔は、何かを企んだ表情をたたえている。



 翌日、再びチャイムの音でヒイロが玄関に出てみると、荷物が届いていた。届けにきたのはデュオだ。
「何のつもりだ。俺は何も頼んでいない」
「あーこれ? これはオレの荷物」
 文句を言われるのを回避するかのように、デュオは「置かせろよ?」と続けてあがりこんだ。
  


 そして二人、今に至る。

「しっかし狭い部屋だな」
「お前が来たからだ」


































バイク便 あとがき

 (前略)第4弾。21日更新の「なか」以前の話、という設定でこんなのを考えてみました。
 元ネタは、実話より(…)。<チャイムが鳴ったので玄関に出たら、見知らぬ青年がいて
「粗大ゴミ無い?」と聞かれた…(とっさに「あ、ネタになる」と思ったのは悲しき性か)。
世間はクリスマスイヴですね。イヴウォーズですね。終戦の日ですね、彼らにしてみれば。
明日はホワイトクリスマスになるとかならないとか。来年は平和な一年になりますように。

2001年12月24日。緋月 昴琉拝






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