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 存在を人々が忘れても。




         朝 焼 け に 吐 く 息 
         朝 焼 け に 吐 く 息 






 錆びかけのリーオウにまたがって、デュオはせっせと塗料を塗っていた。独特の匂いが鼻をつくも、そんなものにはもう慣れっこになっている。鼻がやられたわけでも、その匂いを香かぐわしいと感じるようになったわけでもない。ただちょっと慣れただけだ。
「ふう」
 息を吐いて、しばし手を止める。見上げれば満天の星空が綺麗だ――コロニーでは見られなかった空だ。そこが死に場所だと思っていた頃、星なんか見ている暇などなかった。瞬きは、レーダーに映った敵か、スペースデブリ。それは倒すか、回避すべきもの。
「あー!」
 ひとつ伸びをして、作業を再開する。夜明けまでには終わらせたい作業だ。日が上ってからも塗料まみれじゃ死に神の名が報われない。



















 集めた資料がひとつ足りないことに気付いて、ヒイロは席を立った。薄暗い部屋だ。正常を示すグリーンランプだけが灯った、他に何の明かりもない部屋。しかしヒイロには、部屋の全貌が見えていた。窓の近くに束ねられた資料をまさぐり、必要な書類を探し出す。
 それで資料が全て揃ったことに満足して、ヒイロは部屋を出た。誰もいない、冷たい廊下だ。冷えきった風が抜けていく。その先が外界と繋がっている証拠だ。
 屋外に出ると、寒さは増した。ヒイロは監視カメラの視覚をくぐって、敷地の外へと這い出した。
 いつかいた宇宙が、今は遠く頭上に広がっている。あの場所で、自分達が戦っていたのだと思い出されて、ヒイロはしばし立ち止まる。綺麗な星空だ。そこで悲惨な歴史がつづられたことなど思わせないほどの。
 オリオンが右手を上げ、地平の向こうに沈むサソリに文句を言っている。それで不意に不吉な十三番目の星座の名前を思い出して、ヒイロは顔をしかめた。足を早めた。



















 白みはじめた夜を、塗装の終わったリーオウのコクピットから眺めながら、デュオはため息をひとつ。
「はあ」
 白い息が流れていった。








 朝焼けに吐く息は、そう、白いのだ。
 ウイングゼロの翼のように。
 あの大天使の翼のように。


 息が白いことを知るのは、見えなかったものが見える一瞬に似ている。見えないものの存在を知る一瞬。
 捨てたけれど、それは無くなったわけじゃない。
 あの存在を人々が忘れても、あれが存在した過去が無くなったわけじゃない。




 だから生きていける、俺たちは。
 未来を。
 慣れた戦場を捨て、火種の残る脆い平和の中を。



Merry Christmas eve........              
       ---------------"平和の前日"に幸あれ


































あ と が き

 連日更新第2弾。相変わらずストック無しです。一発勝負です。
 で、昨晩、タイトルだけ思い付きメモって寝たわけですが、何やら思惑と違うものが出来ました。
 しかもなんとなく続きそうな雰囲気。

2003/12/23 飛尽昴琉拝






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