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Eve Night Mission        



 スペースポートから降り立った少年は、人込みに紛れて巡回エレカに乗った。長い三つ編みが人目を引いて目立つのも嫌だから、コートの中に隠したままで。
 終点まで一人居座り続け、偽造ではない正規のカードで代金を支払った。エレカから降りると、雨が降っていた。
 地球にいたときの癖がでて、つい空を見上げてしまった。
 人工の天井に苦笑しつつ、視線をもとに戻す。あいにく荷物の中にカサが見当たらず、近くの店のひさしの下で雨宿りを決め込む。
「明日はイヴだってのに……やっぱL1はジャパニーズ系か。ショウガツが近いんだよな、確か」
 店の中にカレンダーを見つけた。窓越しでもはっきりとわかるそれには、今月の最終日に、休みと書かれた赤丸がつけてあった。
「オオミソカって奴だな、あれは」
 つぶやいて……やはり上に目がいく。そこにあるのに灰色の天井。そして降ってくるたくさんの雨粒。
「けどいくら何でも終戦記念日くらいは晴れてくれないかなぁ」
 止みそうにない雨に、覚悟を決めてデュオは歩きだした。またたく間に全身がずぶぬれになる。一歩踏み出すたびに、体が冷えていく。派手なくしゃみをひとつして。
「あれ。誰かに噂されたかな」
 風邪かもしれないなどと思っても口にしないのが、いかにも彼らしい。

 そのあといくつか店をあたって。テレビが並べてある店にて、明日の情報を掴んだ。
 なんでも、明朝から明後日の夜にかけて雨を雪に変え、その後は晴天にしてしまうらしいのだ。正月三ヶ日が終わるまでは。
「まぁ、妥当なところだな」
 デュオはやっと見つけた一軒の宿に部屋を借りることができた。ヒイロを探すのは明日でも遅くないと思い、濡れた体を温めるのに専念することにした。

        


 翌日。
 雨は以前として雨のままだった。不審を抱きつつも、デュオは図書館へ向かった。そこには端末付の案内所があると、昨日ポートでもらったパンフに書かれていたのだ。

 地球圏統一国家情報部。プリベンターの表向きの肩書きである。デュオは正式に入ってはいないし、入る気もなかったが、そこ経由で入手したIDカードを持っていた。そのカードさえあれば、面倒な手続きなしで、あちこちの機関に入れてそれなりに便利だからだ。
 案の定、受付の機械にカードを通しただけで、デュオは簡単に入館できた。パンフに書かれた地図を見て、案内所に向かう。まだ朝早い時間帯だということもあって、利用者はデュオ以外には誰もいなかった。
 入り口を閉めて、軽いロックを掛けた。これで誰かがいきなり入ってくる可能性はなくなった。デュオは、ポケットから別のカードを出すと、近くの端末に差し込んだ。出てきた画面のパスワードを難なくクリアすると、そこには L1-C0103コロニーの住民一覧がでてきた。
 素早くスクロールさせながらも、決して一つも見逃さない。長年訓練されたエージェントの腕は、まだまだ現役だった。
 ある程度の予想はしていたが、そこにヒイロの名前はなかった。偽名を使っているのかもしれない。デュオは、今度は別のパスワードを打ち込み、裏ネットに侵入した。手早く探さないと、アクセス元がわれる危険性がある。
 焦る気持ちを抑えてなんとか割り出したヒイロの現住所は、デュオの宿よりそう遠くない場所にあった。
 接続を切ってカードをしまい、入り口のロックも解除した。さいわい、本当に誰も来なかったようだ。
 何くわぬ顔で図書館を出ると、外はまだ雨が続いていた。時刻はすでに午後だと言うのに。
「どこか故障でもしてんのかな」
 深く考えずに、ヒイロのアパートへ向かった。

 部屋に、ヒイロはいなかった。管理棟のおじさんに尋ねれば、「今朝出掛けて行ったきり、まだ帰ってきていない」とのこと。何となく行き先を思い浮かべ、デュオは苦笑いをこらえた。
「まさか…点な」
 ファーストフード店で遅い昼食を買い、食べながら足早に進む。目指すはコロニー端の中央制御室だ。雨が一向に雪に変わらないのは、そこに原因があるように思えた。

        


 テロリストたるもの、潜入に関して知識豊富である。特にデュオは。
 まんまと忍び込んで、目的の部屋を見つけた。ドアを開けるとそこに人影があって、思わず身構えてしまった。
「……デュオ!?」
 よく見れば、そいつはよく知った奴ではないか。朝っぱらから探していた奴である。
「あー、ヒイロ。久しぶり」
 何となく脱力しかけて、デュオは本来の目的を思い出した。見ればヒイロは、故障したシステムの復旧作業をしている途中だったらしい。あわてて自分もその側により、作業を手伝いはじめる。作業は難航を極めていた。

 そういえば一年前も似たようなことしてたよな、とデュオが笑った。
「なんか俺達ツイてないよな。一昨年は EVE WARSで、去年はクーデターの阻止だろ。あげくの果てには、今年はこんなとこで雪を降らせよーと必死だ。クリスマスが台無しだな」
 喋りながらも手を休めることはない。
「できれば日付けが変わる前に終らせたい」
「はいはい。任務了解〜ってね」
 結局、作業が終って一息つく頃には、すでに午後0時を回っていた。システムが正常に動き出したのを確認して、元ガンダム乗りの少年達は施設から出た。

 雪が降り始めていた。積もるまでには程遠かったが、白い粉が宙を舞い、やっとクリスマスらしさを見せていた。
 気がつけば夜の街は赤と緑のネオンサインが輝き、鈴の音やら歌やらが流れていた。幾人ものカップルがいた。若者から大人まで、みんな楽しんでいるようだった。

        


「何はともあれ、ごくろーさん。……ホワイトクリスマスかぁ」
 落ちゆく雪をなめようと、デュオは空を仰いで口を開けた。
「バカなことをするな」
 ヒイロに怒られても、今日は気にしない。なにせ、年に一度のクリスマスなのだ。
「Merry Xmas , Heero」
 一瞬きょとんとしたヒイロの顔に、デュオがこいつが今日何の日だかわかってないと確信する。ヒイロは別段おもしろくもなさそうにつぶやいた。
「……メリー……クリスマス……」
「なんだ、わかってるじゃねーか」
 だったら ”クリスマス”ってのを思いきり満喫しようぜと、デュオはヒイロを街へいざなう。

 深夜に積もる人工の雪は、クリスマスカラーの街を、色鮮やかに映し出していた。


        
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