エピローグ
新月 ――――終結はやがて、自分の中に在ることを知る
――我が姿に影おちるその瞬間に。
我が大地は崩れおち、我が記憶は永遠に埋もれよ。
我が姿に影おちるその瞬間に。
我が視界は闇が覆い、我が叡智は永遠に封じられよ。悪い視界をものともせずに、空を進む巨大な影がある。
ゲイルシップ、と、それに乗る者達は呼ぶ。
強き風の船という意味だった。
普段は空高く雲の中に隠れていたが、ついに動き出す、少しずつ高度を下げていく。普段なら見えたはずの眼下の海も、降りしきる雨粒の中で、定かではない。
艦内の、一段高く据えられた場所で、青年が指揮をとっていた。
彼が、上げた右腕を下ろしたとき、それが攻撃の合図となった。
目標は、切り岸の上に建つ、古いが堅牢な石とレンガ造りの砦。
マーベラス・ルーク――驚異の城。以前はそう呼ばれていた、砦。それぞれ大きさの違う、三機のエアシップが砦を離れた。
ソウフの乗る小型機、キエンの駆る中型機、オーシュの操る大型機。
降り出した重たい雨の中へと、闇に紛れて飛び立つ。
言い出した本人なのに、結局ミャクイクは砦を捨てきれなかった。彼を一人残して、エアシップが上昇していく。
途中、巨大な影とすれ違った、向こうは気付いていなかったようだけれども。影が下になっていく。
その直後に始まった砲撃に驚きながらも、三人は上昇を続けた。街の明かりを知ってるか、あの灯火を見たことはあるか
温かい、優しいぬくもり
遠くに小さく点る光り、何ものにも代えがたい、心安らぐ場所…夢を見るような錯覚。身を切る寒さを忘れそうになる。
ソウフは小さく白い息を吐いた。キエンは目を瞑った。
何もかも失っても、けれど俺は飛べる。…果てはまだ見えてこない。
オーシュは、祈りの言葉を唱えていた。
想いを込めて、自分に宿った奇蹟の力が発動されるように。――我が姿に影おちるその瞬間に。
我が身そして我が愛するものよ、永遠に眠れ。何ものにも捕われない自由の象徴としての海に続く、空の果てへ。
三機の大きさの違うエアシップが昇っていく。
影が消える。
やがて雲が晴れる。
嵐は止み、やわらかな風が吹く。
輪郭のない月が見えたような錯覚。
まだ見ぬ明日に、想い馳せて。
終わりの見えない、果てしない旅路を昇って往く。
>>> das Ende...